塩野七生
ローマ人の物語〈11〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(上) (新潮文庫)
ローマ人の物語〈11〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(上) (新潮文庫)塩野 七生
激動の歴史
カエサルがルビコン川を渡ったのは紀元前49年1月。アレクサンドリア戦役が終わったのは紀元前48年の秋。この、わずか2年弱の期間を扱っただけで1冊の文庫本になってしまうことが軽い驚きだが、その短い間の激動の歴史は驚きの連続だった。この間、カエサルはイタリア半島を北から南へに縦断し、マルセーユ、スペインで戦い、ギリシアでポンペイウスを破り、エジプトへ向かう。単なる比喩としてではなく、文字通り「縦横無尽」に動き回った。
カエサルは常に戦力で相手に下回り、ひどい苦戦を強いられ、ときには兵士からストライキを食らうなどの困難にぶつかるにも関わらず、最後には勝ってしまう。決して憤怒や憎悪の感情を表さず、逆境にあっても明るさを失わず、一敗地にまみれても威厳を失うことはなかった。勝利や敗北、敵と味方、政治と宗教、多勢に無勢。人はこれらのことに執着して心を奪われたり乱したりするが、カエサルにはそういうところがなかった。現実を直視し、勇気と理性とユーモアを愛し、どんなときでも自分のスタイルを貫いた。
書物を通じてであれ、こうした巨人を知ることができてよかった。
内乱の終結
カエサルが常に苦境を背に、量では圧倒的に不利な条件から、いかにポンペイウスを破っていったか、その全てがここに書いてある。
部下への飴とムチを使いこなすカエサルの手腕は素晴らしい。「甘え」と「図に乗る」の狭間で部下をどのように扱うか・・・部下にストライキを起こされたりコテンパンな敗戦を経験したりといった中でいかに最終的に勝利を手にするかが見もの。
そして史上有名なエジプトのクレオパトラとの出会い。女性が書いているだけあって男性にありがちな夢物語ではなく女性心理にもとづく紐解き方が面白い。次の巻に更に期待が高まる
塩野作品の白眉
ローマ人は文庫で発売されているものは全て読みましたが、
この11巻、間違いなく彼女の最高傑作です。
カエサル、ポンペイウス、キケロ、カトー、ラビエヌスと
8?10巻までに描かれてきた男達それぞれの考えが遂に剣を交えてぶつかり合うからです。
ああ、塩野女史はこれを書きたかったんだな。だからルビコン以前の前置きが必要だったんだ。
ポンペイウスが死んで事実上カエサルが勝利したときには感慨にふけりました。
また読みたくなること請負いの傑作です。
ローマ人の物語〈11〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(上) (新潮文庫)
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もし、カエサルが小アジアで
もし、 カエサルが小アジアでポントス王ファルナケスを破ったのが紀元前47年6月(「来た、見た、勝った」)、カエサルが暗殺されたのが紀元前44年の3月(「ブルータス、お前もか」)。その間の3年強がこの本の扱う内容である。
古代ローマは急激に膨張し、かつての元老院中心の寡頭政治ではもはや政治が立ち行かなくなってしまった。社会のあちこちに矛盾が表面化し、急速な改革を必要としていた。そして、カエサルという人物がこの時代にはいた。
カエサルは、ローマ人にとって中興の祖と位置づけられているという。もし、この時代にカエサルがいなかったら、古代ローマはどのように社会の矛盾に向かい合っていたのだろうか。ずっと早く滅び去っていたのだろうか。
歴史に「もし」は禁物だけれども、「もし、カエサルがいなかったら」と、「もし、カエサルが殺されていなかったら」の二つの「もし」は、考えずにはいられなかった。
キケロが面白いカエサルによる内乱戦後処理と、ローマでの政治改革からカエサル暗殺までの流れが記してある一冊。
カエサルの才能があまりに突出しているために他の主要人物が見劣りして映ってしまい可哀相にすら感じることもあるが、その中でもカエサルや親友との手紙のやり取りを頻繁に取り上げられる雄弁家キケロの情感こもったやり取りが面白い。
「逆境に弱い男」と称されるキケロだがおそらく並の神経の男なら戦争や政治の荒波に飲まれて平然とはしていられないでしょう。逆に感情の起伏や心配事を常に友達に聞いて廻る手紙の文面から、当たり前の神経の持ち主がどのような胸のわだかまりを抱えてこの時代を必死で生きていたのかが手に取るようにわかる。
困難な自己改革外を固めたカエサルがいよいよ内を固める時に直面した人生初の苦難と苦行。それは軍隊を動かすよりもはるかに難しい仕事だった。
人間の業と力量、そこに見え隠れする外圧にカエサルはどう耐え忍び、どうのようにして遂行してゆくのか。凡人であれば簡単に倒れてしまう苦難にどのように立ち向かい、結果、内と外をまとめるに至ったのかがよく分かります。
ゼロから立ち上げるよりもはるかに難しい、それまでにも見事に機能していた組織を、『将来のためにあえて改革する』難事業とその成功物語。
日本の政治家に聞かせてやりたい。
ローマ人の物語〈12〉ユリウス・カエサル―ルビコン以後(中) (新潮文庫)
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魅力的な男カエサルの物語
魅力的な男カエサルの物語ローマ人の物語もいよいよカエサルが主人公として登場します。
塩野氏は「絶望的な状態にあっても機嫌の良さを失わなかったこと」をカエサルの特徴と論じますが、彼の幼年期から執政官としてローマの実権を握るまでの約40年間をカバーする本巻では、まさに指摘のとおりのカエサルの奔放なキャラクターがいきいきと描かれます。
その人生は、伯父が粛正され自らも処刑されかけた幼年期に始まり、30歳時点ではダンディな生活ぶりと莫大な借金のほうで有名だったほど晩成型。ところが、ようやく40歳にして「起つ」と、とたんにローマが彼を中心にまわり始めるという珍しい男。
本巻後半には、どの歴史家でも解けない謎、「金」と「女」に言及。なぜあれほどモテたのか、なぜあれほど借金をしたのか、について、塩野氏なりの結論を述べています。
本巻での塩野氏の文章は、これまでのローマ人の物語とは明らかに違う印象を受けました。まるで好きな男の子のことを女友達に話すようなうきうきした感じがにじみ出ており、きっと彼女もカエサルに惚れてしまった一人なんだろうなぁと感じました。
カエサルの今後の人生がどうなるのか、期待を抱かせる1冊です。
カエサルの青年期まで この巻ではカエサルの誕生から青年期までが描かれる。したがって、時間的には第7巻で扱われたマリウスとスッラの時代と重複する部分もある。けれども、第7巻は時代を動かしていたマリウスとスッラの側に焦点を当てていたのに対し、この巻ではカエサルが主役になるので内容的には重ならない。
読後の感想としては、次の3つが印象に残った。
第一は、著者の塩野さんの物語の運び方が巧みなことである。カエサルの幼少期のことなどは不明なことも多く、その時期に焦点を当てて物語を進めることは大変だったと思う。しかし、著者は、カエサルの生まれた地区の特徴であったり、ローマ貴族における子弟教育のあり方、ローマの住宅の特徴など、他の書物では全く触れられないか、触れられてもぞんざいに扱われてしまうような事柄を丁寧に検証することで、カエサルがどのように育ったのかについての著者なりの推測を巧みに進めている。
第二に、カエサルの人物像がとても活き活きと描かれていることである。「カエサルと女」「カエサルとお金」などは、まるで同時代の新聞記者による「カエサル特集」の記事の一部であるかのように分析に富んでいて面白かった。ここで扱われている内容が2千年以上も前の歴史的人物に関することであるとは思えないくらいだった。カエサルという人物の魅力にも依存するのだと思う。
第三は、カエサルの知性の明晰さである。塩野さんが引用してくれたカエサルの演説の巧みさは筆舌に尽くしがたいものがあった。
一人の男が世界を変えてしまうドキュメンタリー「ローマ人の物語」は、後数冊を残してほとんど読みすすんだのだが、この巻から始まるユリウス・カエサルの話が最も楽しく、示唆に富んでいると感じた。
リーダはかくあるべしという組織論めいた教訓もあり、それはそれで参考になるのですが、単純に主人公であるカエサルに人間的な魅力を強く感じて、この紀元前の人物のノンフィクションな活躍に心踊らせながら読みました。
今の世界標準の、日本人には少し違和感のある価値観はこのときに生まれたのかも知れない。一人の男が世界を作ってしまうという考え方はその最たるものではないかと・・・
そんなことも考えさせられました。ユリウス・カエサル ルビコン以前(上)ローマ人の物語8 (新潮文庫)
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ガリア平定、そしてルビコン川をわたる
ガリア平定、そしてルビコン川をわたる前半部分は「ガリア戦記」にもとづいたガリア戦役の記述が続きます。ようやく平定したかに見えたガリアも、聡明なヴェルチンジェトリクスという人物の先導により反カエサルとして一斉に蜂起。これまでガリアではほぼ一方的に勝利を得てきたカエサルにとっては、初めて出てきた敵側の戦略家。そのヴェルチンジェトリクスとの戦い・駆け引きは固唾を飲んで読み進みました。また、印象的だったのは、戦いの節目節目に発せられる、カエサルの部下兵士たちに対する言葉。その表現力のうまさだけでなく、本心から出た言葉だったからこそ、「この人のためなら」と思わせたのだろう。素晴らしいリーダー像です。
本書後半は、カエサルを内乱蜂起へと向わせた、元老院派との緊迫した状況が描かれます。「ルビコン川を渡る」…世界史オンチの私は、言葉の意味は知っていても誰のどのようなエピソードかは知らずにいましたが、まさのその意味のとおり、決断に際してのカエサルの苦悩がよく伝わってきます。
塩野氏の筆もますます冴え渡る一冊です。
緊迫感がすごい ガリア戦役の6年目からルビコン川を渡るまで、すなわち、紀元前53年から紀元前49年の1月までの4年余りがこの巻の舞台である。
すでに5年に及ぶガリア戦役によってローマの覇権がガリア全域に及びつつあったが、そんな状況において、クラックスがパルティアで敗死して三頭政治の一角が崩れて政治の均衡が崩れてしまった(前53年)。さらにガリア民族の大蜂起が起きてカエサルが窮地に立たされるなど、今までの順調な展開とは違った動きがある。ガリア戦役は、カエサルがアレシア攻防戦に勝利することによってその後の帰趨を決定したが、その勝利に至るまでの過程は実に危険に満ちたものであった。
政治的にも、クラックスが死に、ポンペイウスが元老院派に取り込まれたことにより、カエサルの政治的基盤が崩されていく。元老院の意地の悪い姦策が次々に功を奏することで、カエサルは窮地に追いやられていく。国外において他民族と戦いつつ、背後にいる国内の勢力とも戦わなければならぬ緊張関係が続いた結果、運命のルビコン川に至る。
カエサルや彼に関わるさまざまな人々の人間的な悩み、苦しみ、思惑が緊迫感とともに赤裸々に描かれていて、あっという間に読み終わってしまった。
ルビコン川という小さな川 カエサルのガリア戦は 最大のライバル ヴェルチンジェトリクスを得て これを打倒した時点で終わる。本書では その最後のガリアでの戦いを前半部分で描き出す。
外征が終わると 内乱が始まることは歴史の常である。カエサルもそんな歴史の一例だ。外を制した彼の目の前に 「内部」が 敵対していくのが 本書の後半である。
ルビコン川とは実際には小さな川だと聞く。ラインやドナウなど 欧州史を彩る大河に比べると小川のようなものという。
そんな小さな川が 世界でも有数の有名な川になった場面を本書は描く。この部分は 塩野の歴史家としてではなく「作家」としての 筆致が冴え渡る場面だ。一頁程度の部分ながら 歴史が転換する瞬間を きらめかせている。
カエサルの物語も いよいよ後半戦に入っていく。ユリウス・カエサル ルビコン以前(下)ローマ人の物語10 (新潮文庫)
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ガリア戦記を分かりやすく
ガリア戦記を分かりやすく叙述40歳にしてようやく「起った」カエサルが、ローマ国境をはるかに越え、ガリア人の広大な土地(西はスペイン・イギリスから東はドイツ国境まで)の平定に乗り出します。
本巻のほとんどは、カエサル本人の著になる「ガリア戦記」をもとにしていて、章立ても戦役の1年ごとにまとめられています。私は原典(訳本)を読んでいませんが、毎年の戦役の様子がドラマチックに描写され、一気に読み進みました。
様々な部族で構成されるガリアの土地を、キャラクターの異なる部下を適材適所に使い、同時進行的に多方面で戦いを展開するさまは、まるで日本の戦国時代を思わせ、司馬「国盗り物語」を彷彿とさせます。
塩野氏は、カエサルの文章力を絶賛し、ガリア戦記を忠実に再現しているようですが、そこまで書かれたら「ガリア戦記」を読みたくなってしまいます。
とにかく、わくわくして読める一冊です。
執政官就任からガリア戦役の5年目まで この巻では、カエサル・グラックス・ポンペイウスの三頭政治の密約が交わされてカエサルが執政官(コンスル)に就任する1年前の紀元前60年から、前執政官としてガリア属州総督に就任してガリア戦役も5年目となる紀元前54年までの期間が扱われている。
読後の感想として次の4点が印象に残った。
第一に、カエサルは「情報」の重要性を認識し、徹底的にその利用を図ったことである。情報が価値を持つのは「古代」においても同じであった。むしろ、情報入手の手段が限られているだけあって現代以上に重要な意味を持つ場合も多かった。彼は、元老院の会議録を公開して市民の批判に曝すようにしたり、政治や戦場における敵に関するさまざまな情報を集め適切に対応した。
第二に、カエサルの用意が周到で鮮やかであることである。農地法を通すためには執政官となる必要があり、そのためには政治的な足場を固めておく必要がある。その足場を固めるために、仇敵関係にあったポンペイウスとグラックスを秘密裏に味方に引き込むなどはその最たるものであった。この政治上における用意周到さは、戦場においても遺憾なく発揮された。
第三に、カエサルの知的好奇心が非常に高いことである。著者の塩野さんがたびたびに渡って指摘していることだが、カエサルの『ガリア戦記』には敵となったガリアの諸民族やゲルマン、ブリタニアの文化、風俗、宗教、家族、教育、環境などのことに関する記載が豊富だ。これらの情報は、敵方に関する情報収集の一環として集められたものと思われ、その意味では第一の点と関連するが、「どのような」情報を集めるかということについては収集する側の個性が出てくると思う。
第四に、どんな逆境におかれても、カエサルは弱音を吐かなかったことである。意思の力の強さを思わずにはいられなかった。
同業者としてのカエサル カエサルのガリア戦記を ゆっくりと塩野がなぞるのが本書である。
戦記としての本巻の白眉は 英国上陸にあると思う。実際にローマ人で 英国まで攻め入ったのは カエサルが初めてだ。わざわざ海を隔てた国を目指したカエサルの覇気というべきか。チャーチルほどの人ですら このカエサルの侵略をもってして英国の歴史が始まったとすら言ったというのだから。
但し 読み物としての本巻の白眉は「ガリア戦記」というカエサル自身の著作への塩野の取り扱いにある。
塩野は キケロと小林秀雄の「ガリア戦記評」を 本巻で紹介している。キケロと小林秀雄にして 絶賛しているカエサルの著作について 塩野はすっぱりと言っている。
「私の書こうと試みているのは カエサルという人間である。そして 人間の肉声は その人のものする文章に表れる」
こういう事を喝破されてしまうと このレビューからして 我ながら読み直してしまうほどだ。
塩野はカエサルへの片思いで本巻を書いている。塩野は カエサルのやったことではなく カエサルという「人間」を書きたいと言っている。これは もはや愛の告白ではないか。そんな 塩野が 著述家としての同業者である ガリア戦記の著者カエサルを見つめている姿が見えてくるようではないか。
ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)ローマ人の物語9 (新潮文庫)
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第二次ポエニ戦役
第二次ポエニ戦役 地中海の覇権を失ったカルタゴは、スペインへと支配地域を広げていった。スペイン進出を主唱し実行したのは、第一次ポエニ戦役のカルタゴ側の英雄ハミニカル。ハンニバルの父であった。
スペインの支配を安定させたハンニバルは、ピレネー山脈を越え、ローヌ河を渡り、アルプスを越えてイタリアに侵攻した。本巻は、ハンニバル戦記と呼ばれる第二次ポエニ戦役を扱うものである。
稀代の戦術家といわれるハンニバルは、戦略にも長けていたようだ。彼の戦術・戦略のために、ローマは連戦連敗を重ね、ローマ連合を構成する都市国家の離反すら招いてしまう。
そのような非常事態にローマ人がどのように立ち向かったか。なぜ、ハンニバルはイタリアでの優勢を保てなかったのか。どうしてカルタゴはハンニバルを孤立させてしまったのか。そんなことに思いを馳せながら無我夢中で読んでいたら、あっという間に読み終わってしまった。
天才ハンニバルの登場本書が面白いのは、それぞれの巻での主役が随分前から導火線のように伏線としてチョコチョコ登場してきていて、ドカンと主役に躍り出たときには読み手に早くも感情移入させることに成功している点だ。ハンニバルにしてもスキピオにしてもそれぞれの家柄、両親、幼いときから初めての従軍までを織り交ぜており「人間突如として頭角を現す奴なんていないんだ」と改めて思い知らされる。
戦術や戦略面、図などが充実していて想像力を掻き立てるが、その戦闘までの政治的過程も描いているために指揮官の顔やその人物を選出していくローマの内情までよくわかる。
大スターへの恋慕 ポエニ戦役の大スターである ハンニバルの活躍がふんだんに書かれているのが本書である。
塩野は 冷静な歴史叙述家である一方 時としてミーハーなまでに 歴史上の人物に惚れてしまう点が特長である。塩野が「ローマ人の物語」なる大長編に挑んだのも ローマ人を偏愛したからだと思うが 本書に限っては ローマ人と敵対した ハンニバルに惚れている点が良く分かる。読んでいるこちらも苦笑してしまうほどだ。ローマがおたおたしているのを 塩野は 幾分楽しげに描いている部分すらある。
但し 冷静な歴史叙述家の視点は忘れてはいない。ハンニバルの話も 単に戦闘の描写で済ましているわけではない。おそらく ハンニバルの話は「アルプスを象を連れて越えた」という 幾分漫談調に語られることも多かったと思う。それに対し 塩野は 冷静に ハンニバルが目指したものは ローマ帝国をローマ帝国たらしめた ローマ同盟の政治的撃破を ハンニバルが目指したとしている。
大スターに対して キャーキャー言っていながら 目が笑っていない塩野の顔が目に浮かぶ。
ローマ人の物語 (4) ― ハンニバル戦記(中) 新潮文庫
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あのハンニバル
戦争家の真骨頂あのハンニバルである。幾度となく語られた彼だが、このようなスケールから描かれたことは、これまでなかった。常に、日本人好みの「ヒト」に焦点を当てたものが多いからだ。
でも、塩野は違った。というより、歴史は違う。もっと広大で深遠なシステムなのだ。これを喝破した彼女はすばらしい。
スキピオがハンニバルに「あなたは戦争の時代にはふさわしいが、平和の時代には必要ない」と言ったのは、的を得ているのだろう。
第1次ポエニ戦役とその後 地中海の制海権を巡って、ローマとカルタゴが激しく争った時代の物語。本巻では、第1次ポエニ戦役とその後のことが扱われていて、カルタゴがシチリアに持っていた権益をどのようにして失い、ローマがどのようにして地中海に覇権を唱えたかが分かりやすく描かれている。
この時代、シチリアをめぐる抗争が絶えなかったことは世界史で習った。しかし、どのような背後関係があって、どのような規模の抗争が行われたのかは聴いたことがなかった。本書は、シチリア勢力分布図を何度も示し、ある場所を確保することがローマやカルタゴにとってどのような意味があるのかを分かりやすく説明してくれている。
とても細かなところまで目が行き届いているのがこの本の特徴だと思う。印象に残ったのは、ローマ軍の宿営地建設のマニュアル化の徹底ぶりだった。
「ローマ人には、マニュアル化する理由があったのだ。指揮官から兵から、毎年変るのである。誰がやっても同じ結果を生むためには、細部まで細かく決めておく必要があった。」
歴史は面白い本書はハンニバル戦記の序章が丁寧に書いてある。
地図や武器、勢力図などが分かりやすく散りばめられていて、読み手の想像力を刺激しながらもそれだけでは追いつかない部分をしっかりと補ってくれる。
ハンニバルやスキピオなどの歴史上人脈上の伏線を少しずつ織り交ぜながら物語が進んでいくので徐々に盛り上がっていく緊迫感が文章から伝わってくる。
船さえまともに操れなかったローマ人が独創的な海戦をこなせるようになるまでのスピードの速さは本当に凄い 他民族を潰さず受け入れるという路線がここでも成功している
ローマ人の物語 (3) ― ハンニバル戦記(上) 新潮文庫
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現代にも通ずるヒントの宝庫
「我々はあなた方と闘ってきた」?カルタゴと湾岸戦争 本書はカビくさい古典ではなく、現代にも通ずるヒントの宝庫だ。
例えば、西洋人が考える「国際貢献」とは?124p180pによると、
ローマの「クリエンテス=同盟国」となったカルタゴとヌミディア。
ローマ人は決して両国を同列に扱わなかったそうだ。なぜか?
ヌミディアはローマ軍に兵力提供したのに、対して、
カルタゴは、小麦を供給するだけだったからだ。
カルタゴの使節は「我々はあなた方と闘ってきた」と主張するが、
元老院では嘲笑の的になる。『血も流さずにいて何を言う!』
このシーンを読むと、1991年の湾岸戦争を思い出す。
日本は多国籍軍に対し、一兆円を超える、130億ドルを拠出した。
戦後クウェートは、NYタイムズ広告で30カ国に対し感謝表明した。
しかし、その中に、Japan の文字はなかった。国辱だった。
日本の平和憲法は、西洋の常識に対し理論武装できているだろうか?
PS●他にも、114pマケドニア王のローマ評は必読だ。
このシリーズ、文庫版10冊くらい読んだが、ハンニバル編の5巻が
一番おもしろかった。友情・夫の義務・権力争い・英雄の熱弁…数々のドラマ見所アリ。
カルタゴの滅亡 依然としてイタリアにとどまるハンニバルをイタリアから追い出すために、スキピオはカルタゴの本拠を襲う。スペインを平定したスキピオ・アフリカヌスの進撃に恐れをなしたカルタゴはハンニバルに帰国を命じる。ハンニバル戦記と言われる第二次ポエニ戦役も、ザマの会戦をもって終わる。
本巻は、ローマ人による第二次ポエニ戦役の戦後処理と、その後に生じたギリシアの混乱、マケドニアとカルタゴの滅亡までが描かれている。
燃え盛るカルタゴを見つめながらスキピオ・エミリアヌスが言った「だが、この今、わたしの胸を占めているのは勝者の喜びではない。いつかわがローマも、これと同じときを迎えるであろうというという哀感なのだ」という言葉は、とても示唆的で胸に染みていった。
歴史上稀な天才同士のぶつかり合いハンニバル対スキピオ まさに名将同士のゾクゾクする対決。
イタリア国内でローマにも迫る勢いであったハンニバルであったが、戦闘だけでは一国を倒すのは難しいと感じさせられる。現代でも同じだが戦争と政治力はワンセットでハンニバルが犯したミスは政治的なかけひきだったか・・・。
また、歴史的にみてもローマの地中海制覇を早めたのが逆にハンニバルがローマを脅かしたが故だというのも皮肉であり歴史の妙味を感じさせてくれる。
戦争物語だけに本書が収まらないところはハンニバル戦役後の50年も経ってのカルタゴの抹殺を疑問視したり格名将の指揮振りを描いてあったりといった想像力と検証力でしょう。
ん?面白い
ローマ人の物語 (5) ― ハンニバル戦記(下) 新潮文庫
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ローマによるイタリア統一の過程
王制から共和制へ ローマによるイタリア統一の過程が分かりやすく説明されている。ローマにとって最初の成分法となる十二表法成立の背後関係とか、ケルト人来襲によるローマ陥落とその後の復興などは、ローマ人の良い特徴が現れていると思う。
ローマが王制から共和制に移ってから、政体について動揺を繰り返していたが、リキニウス法の制定で政治的な安定を見る。共和制ローマを支える政治体制や税制、市民権の概念、インフラ整備についての考え方、他の民族との関係(ローマ連合の特徴)を、同時代の他の都市国家との比較検討することで、ローマの特徴をうまく描きだしていると思う
積み重ねています。この巻の出来も立派だと思います。複雑な周辺事情をも正しい順序
で説明してくれているのでしょうかね。
お話はギリシアへの派遣視察団が帰国するところから続きます。前
449年十二表法の制定により、共和制ローマとして、ローマ人は歩
み始めます。塩野さんの説明がすごくわかりやすかったのは、この
共和制というのが、現在のフランスの共和制などとはまったく異質
の政体であるこというものでした。翻訳の問題なのだろうが、歴史
を志すものには重要なポイントなので、イメージだけでもしっかり
持ちたいところ。といいつつ私もすこし忘れている。しかし、彼ら
の文明はこの時期に法律が必要なほど高いものだったとも考えられ
るし、日本では成文法は聖徳太子の17条の憲法(604年)まで法律が
なくても、モラルのあった生活をしていたとも考えられる。
■ ともかく政体を変える事により、躍進するかと思った共和制ロ
ーマなのですが、文化レベルでは蛮族と言わざるを得ない、ケルト
人により、壊滅的な敗北をすることになります。これが前390年の出
来事です。このケルト人は去年流行したceltic womanや、有名なenya
もそうですし、もっとも好きなのはThe Chieftains等、他にリバー
ダンスなどの文化の源流たるケルト人ですが、このころは蛮族でしか
なかったんですね。しかし、この時期は森に棲む民族として、広く生
きていました。ドイツにも、スイスにも、フランスにも、スペインに
も。375年にゲルマン人の大移動が始まるまでは、深い森の中でケルト
人は暮らしていたのですね。
さまざまな様子が事細かにかかれていて、非常に読後感も素晴らしい
ものでした。
ギリシャから2000年以上経って 塩野が案内してくれるローマ史学の旅の二冊目。
ローマを語るにおいて 塩野はギリシャが欠かせないという。そんな塩野が 本書では まずギリシャをじっくり描いてくれる。
白眉はやはりぺリクレスであろう。塩野が紹介する彼の演説は 正直読んでいてため息しかでなかった。特に好きな箇所を抜き出す。
「われわれは美を愛する。だが 節度をもって。われわれは知を尊ぶ。しかし 溺れることなしに。われわれは 富を追求する。だが これも 可能性を保持するためであって 愚かにも自慢するためではない。
アテネでは 貧しいことは恥ではない。だが 貧しさから脱出しようと努めないことは 恥とされる。」
かような発言が2000年以上前にあった点で 人間は大したものだと感心する。一方 それから2000年もの間 いったい人間は進化してきたのかと いささか絶望感も覚える。
こんなギリシャを しかし ローマは 学んでも真似はしなかった。それが 滅んでいったギリシャと 版図を広げていったローマの違いである点も 塩野ははっきりと指摘している。
本書で描かれるローマは ギリシャから学び、敗戦から学び、そうしてローマになっていった始まりを描いている。
話は始まったばかりなのだ。ローマ人の物語 (2) ― ローマは一日にして成らず(下) 新潮文庫
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一千年に及ぶ興隆から衰亡までを余さず描き出した物語
ここから始まる大レース紀元前後の古代国家でありながら、現代のイデオロギーにすら計り知れない影響を残した大帝国の、
一千年に及ぶ興隆から衰亡までを余さず描き出した物語。
一見際立った取り得を持たず、体格にもさして恵まれず、
多神教のもと極めて鷹揚な宗教観を持ち、風呂好きの魚好きのお祭り好きと、
なんとなく我々日本人には近親感の沸く特長をもったローマ人が主人公である。
彼らがいまだ棲み処も持たず、地中海世界を転々とするただの弱々しい集団であった昔。
ようやく中部イタリアの丘の上に安住の地を見出し、
そこに国家と呼ぶのもはばかられる、ささやかな集落を築いたその時から、
都市ローマと、ローマ人たちの、永い永い歴史は始まるのである。
彼らは始めから強大であったのではない。
ローマの周囲に存在した数多の諸部族、都市国家の間で右往左往しながら、
実にゆっくりと、少しずつ少しずつ力を備えてゆく。
その様を追ううちに、知らず知らず読者である我々は、
「我らがローマ」の心境で、手に汗にぎり声援を送ることだろう。
史上最大の帝国の、どこまでも壮大な物語は、
ローマ人と数多の英雄たちによって紡がれてゆくのである。
ローマの歴史が面白い非常に読みやすい文章です。
ローマ成立の歴史についてわかりやすくまとめられています。そのなかの筆者の考察にとても同感できるものがあります。ローマの歴史って面白いですね。ローマを訪れたくなります。塩野さんの大作の一冊目ですが、こんなにおもしろいとは今まで知らなかったので、すぐに全巻読んでしまいそうです。この巻の最後はギリシャの歴史に関して手際よくまとめています。民族のちがい、政治の形態の違いがいかにその後に影響するかがわかり興味深いです。
ローマ人を読み解く諸前提まず、この上下巻を読むことによって、以後のローマ人を通読する際の諸前提となる。
ローマ史を概観するためには、やはり順次読み解くのがよいと思われる。
ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫塩野 七生
ローマ人の物語 (1) ― ローマは一日にして成らず(上) 新潮文庫